交通の便 ーー 移動の便 ーー の良し悪しを、
感じる機会がそもそも少なかったのだ。
それでも、
四季折々の色彩を見せてくれる、
街路樹や木々、植物に囲まれた、
静かで、優しく穏やかな環境は、
のんびりした麻未の性格に合っていたのか、
麻未は、心地よさを感じていた。
*
タクシー乗り場には、
麻未の前にふたり並んでいた。
スーツ姿のサラリーマンらしき男性と、
麻未より少なくとも5〜6歳は年上に見える、
20代後半から30代前半ぐらいの女性だ。
ふたりとも、
手にしたスマホの画面を見つめながら、
せわしなく指を動かしている。
タクシー待ちの暇つぶしに、
ゲームでもしているのだろうか。
それとも、
家族への、連絡だろうか。
タクシー乗り場の硬いプラスチック製の、
半分ほど空いていた簡易ベンチに腰かけ、
麻未も、思い出したように、
鞄の中のスマホを探(さぐ)った。
ほんのかすかな期待を胸に、
スリープモードを解除する。
小さな胸が、
また、ざわつき始めた。



物語のあらすじ



とうじょうじんぶつ



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