母親からの教えだった。
駅周辺には、コンビニや大手スーパーなど、
夜になっても、それなりの往来があるが、
住宅地、つまり自宅に近づくと、
コンビニが距離をおいて数店あるだけで、
人影は途端に少なくなり、
代わりに、あたりは静けさに包まれる。
住環境としては申し分ないこのエリアも、
女性がひとりで夜道を歩くには、
少なからず危険が伴うのも無理はない。
特に治安が悪いというわけではないが、
用心するに越したことはないのだ。
タクシー代は後で払うから、
バスがない時間に帰って来る時は、
きちんとタクシーを使いなさい、
と、母親からは、
いつも言われていた。
駅から家までの距離が少し遠いのは、
不便と言えば、それまでなのだが、
麻未は、
それほど不満を感じたことはなかった。
そもそも、
中学はほぼ不登校で過ごしてしまったし、
高校も通信制高校だった麻未は、
毎日学校に通う、
という行為そのものを経験していない。



物語のあらすじ



とうじょうじんぶつ



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